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科学的にみた言語の習得 聞こえなければことばが身につかない

聞こえない子、聞こえにくい子(難聴児)にとっていちばんの問題は、耳が聞こえないことではありません。そのままでは「ことばが身につかない」ことです。 ことばは、人間の社会生活に欠かすことのできない、たいせつなものです。ことばが身につかなければ、子どもは一生たいへんなハンディを背負うばかりでなく、ものごとを考える力も大きく失われてしまいます。

補聴器や人工内耳には限界がある

ではどうすればいいでしょうか。

ひとつは、補聴器や人工内耳を使って聴力を補うことです。しかしそうした方法には限界があります。最新の技術や医療でも、聞こえない子、聞こえにくい子を、聞こえる子とおなじにすることはできません。また、すべての子に有効な方法ではありません。

人工内耳は聴力を相当程度補うこともあれば、効果がないこともあります。

人工内耳をしても効果がなかった場合、子どもは「ことばのない子、ことばが十分ではない子」になる危険があります。このようなことは絶対に避けなければいけません。

まず手話で話しかけよう

聞こえない子、聞こえにくい子には、できるだけ早くから手話で語りかけてあげましょう。

手話は、補聴器や人工内耳とちがって、生後1日目から使えます。人工内耳の手術を待っているあいだも、親は赤ちゃんに手話で語りかけることができます。

もちろん声で話しかけてもいいのですが、赤ちゃんはきっと声より手話に反応するでしょう。

たくさんの手話を見ているうちに、赤ちゃんのなかには「言語意識」が育ちます。

言語意識というのは、ものごとを記号にして捉えるという、人間特有の脳の働きのことです。言語のいちばんの基盤で、それに合わせた脳細胞の組織化が進むこと、といってもいいでしょう。言語意識があってはじめて、赤ちゃんは手話や日本語、英語といった人間の言語を獲得できるようになります。

かりに人工内耳をする場合も、手術まで何もせずに待っているのではなく、毎日くりかえし手話で話しかけてください。

「手話での話しかけ」を続けていると、赤ちゃんは生後4、5か月から眉やあご、手のひらを動かすようになります。これは手話の喃語(なんご)といわれるもので、健全な言語発達が進んでいることを示します。喃語の時期を過ぎると、1歳前後で手話の単語を表わし、2歳までには手話でかんたんな文章をいえるようになります。その言語の発達は、聞こえる赤ちゃんが音声日本語を獲得するのとまったくおなじ発達段階をたどります。

手話から音声語へ

聞こえない子、聞こえにくい子は、どのような場合もまず手話を身につけ、音声語はその次の段階で考えるべきです。

手話でいったん言語意識が育ち、ことばの準備ができたら、そこから先は二通りの道があります。

ひとつは、ゆたかで力強い手話を育ててゆくことです。

もうひとつは、手話とともに音声語の学習をはじめることです。

子どもは手話を身につけていれば、音声日本語の学習がうまくいかなくても、「ことばのない子、ことばが十分でない子」にはなりません。思考力が不十分になることもありません。

手話は、聞こえない子、聞こえにくい子が無言語にならないための、重要な、そして確実な「保険」でもあるのです。 きちんとした手話を

聞こえない子、聞こえにくい子に手話で語りかけるときは、できるだけ「自然手話」を使いましょう。

自然手話というのは、赤ちゃんが自然に覚えることのできる手話です。不十分で不確かな、ジェスチャーのような手話を使っていると、赤ちゃんは十分な言語意識を育てることができません。

自然手話は、「ろう者」といわれる人びとがよく使っていることばです。聞こえない子、聞こえにくい子に手話で話しかけるときは、ろう者に助けてもらうといいでしょう。それができないときは、親がろう者に自然手話を教えてもらい、その手話で話しかけることを勧めます。

これは、聞こえる赤ちゃんに英語を教えるときとおなじです。ネイティブがたくさん話しかけていれば、聞こえる赤ちゃんは自然に英語を覚えてしまいます。手話も、それとおなじことです。

どのような手話が自然手話なのか、これは明晴学園の乳児クラスで確かめてください。

手話は音声語のじゃまをしない

聴覚障害の専門家のあいだでは、しばしば「手話を覚えると、日本語が覚えられない」とか、「人工内耳をするなら、手話は禁止した方がいい」といわれます。これはまったくのまちがいです。

明晴学園の教育は、言語学や心理学の最新の研究をもとに進められています。聴覚障害の専門家は、「どうすれば聴力を上げられるか」をよく知っていますが、「どうすれば言語を獲得できるか」の専門家ではありません。

いまではほとんどの言語学者や心理学者が、人工内耳をしても手話は必要だと考えています。また手話が音声日本語の習得をじゃまをすることはない、といっています。

自然手話は、音声日本語の習得も促進するので、人工内耳をする子どもも積極的に身につけるべきことばなのです。

 

※「人工内耳をするなら手話は禁止」という考え方がまちがっていることは、2010年代以降、アメリカを中心に発表された多くの研究が実証しています。詳しく知りたい方はこのあとに掲載している文献や本のリストを参照してください。

手話は日本語と同等のことばです

聴覚障害の専門家も、最近は「手話なんかだめだ!」と、一方的に否定する人は少なくなりました。けれど、「手話では不十分だ」とか、「手話はまともなことばではない」「日本語にくらべれば劣る」という理解が多いようです。最新の言語学からすれば、それらはすべてまちがいで、「迷信」にすぎません。

手話は、地球上に何千とある人間の「自然言語」のひとつで、日本語や英語とおなじ力をもっています。

日本で使われている自然手話は「日本手話」といわれ、日本語とは単語も文法もちがう、別の言語です。ですから日本手話をマスターすることは、英語をマスターするのとおなじようにむずかしいことです。しかし乳幼児はだれでも問題なく、日本手話を身につけることができます。

ただし、それは生後5歳くらいまでで、それ以上大きくなると、どんなことばでもマスターすることはむずかしくなります。

生後すぐに、きちんとした自然手話を。

これが明晴学園の願いです。

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できれば読んでください

ここに書いてあることは、すべて科学的な根拠をもとにしています。

聞こえない子、聞こえにくい子を持つ親のみなさんは、ぜひそうした根拠をご自身で確かめてください。日本には一般向けのいい参考書が少ないのですが、明晴学園は以下のような論文や本をお勧めします。

論文は、一部を除き、著作権の関係で内容を表示できません。興味のある方はご自身でインターネットなどを通して入手してください。なお、これは2016年4月時点での情報であり、インターネットのアドレスなどはその後変更されていることもあります。

推薦する論文

ろう児の言語獲得を保障する ~言語学者ができること~   Tom Humphries (トム・ハンフリーズ) ほかの共著

『Ensuring language acquisition for deaf children: What linguists can do』(ろう児の言語獲得を保障する ~言語学者ができること~)

Tom Humphries (トム・ハンフリーズ) ほかの共著

「Language」アメリカ言語学会学術誌「ランゲージ」誌2014年6月号の論文

解説:アメリカの言語学者らが、最新の研究結果をもとに、人工内耳をしても手話が必要であると述べています。アメリカ言語学会が刊行する学術誌「ランゲージ」に掲載された総合的な論文で、最新の研究成果を網羅しています。英文は表示できませんが、著者の了解を得て明晴学園が日本語に翻訳したものがあります。

著者の了解を得て内容をこのサイト内に掲載しています。

「Language」アメリカ言語学会学術誌「ランゲージ」誌2014年6月号の論文(和訳)

PDF版はこちら

『Spoken English Language Development in Native Signing Children With Cochlear Implants』(人工内耳をしたネイティブ・サイナー児の音声英語発達)

Kathryn Davidson(キャスリン・デビッドソン)ほかの共著

「Journal of Deaf Studies and Deaf Education」誌2013年10月号論文

解説:人工内耳をしたろう児がどのように音声語を獲得しているかを、「人工内耳をしたネイティブ・サイナー(両親もろう者のろう児)」について調査した研究。手話を身につけたろう児は音声言語の学習も進むことを明らかにしています。人工内耳には手話が必要なだけでなく、その手話は「自然手話」であることがポイントです。

著者のデビッドソンらは、人工内耳をしたろう児の手話と音声語の習得を専門的に研究している認知言語学者で、日本にはこれだけの専門性をもつ研究者はいないようです。

PDFファイルが以下から入手できます。

http://jdsde.oxfordjournals.org/content/early/2013/10/16/deafed.ent045.full.pdf+html

『Should All Children Learn Sign Language?』(ろう児はみな手話を学ぶべきか?)

Nancy K. Mellon(ナンシー・メロンほかの共著)

 「Pediatrics」 Vol 136, No. 1, July 2015(米国小児科学会誌2015年7月号)

解説: 耳鼻科学、言語学、教育学などの専門家が小児科学会誌のためにまとめた論文。人工内耳をするかしないかにかかわらずろう児には手話が必要、あるいは有益と論じています。「ランゲージ」誌論文と重複しますが、より広い視点からの考察が加えられています。以下のサイトで参照できます。

http://pediatrics.aappublications.org/content/136/1/170

『バイリンガルろう教育実現のための一提案 手話単語つきスピーチからトランスランゲージングへ』

佐々木倫子著

「言語教育研究」2015年 第5巻

解説:バイリンガル教育の専門家が、聞こえない子(ろう児)の言語獲得には手話と日本語の二言語習得、バイリンガリズムが基本であることを述べ、さらに二つの言語をひとつのシステムとしてとらえる「トランスランゲージング」という最新の概念について論じています。

著者の了解を得て内容をこのサイト内に掲載しています。

『言語教育研究』2015年 第5巻Principles and Guidelines

『Principles and Guidelines for Early Intervention After Confirmation That a Child Is Deaf or Hard of Hearing』(ろうまたは難聴の診断後の早期介入における原則と指針)

Christine Yoshinaga-Itano(クリスティン・ヨシナガ=イタノ)「Journal of Deaf Studies and Deaf Education」誌2014年論文

(2014)19 (2): 143-175.doi: 10.1093/deafed/ent043

解説:聞こえない子、聞こえにくい子への言語発達を含む総合的な支援は、アメリカのコロラド州が最も進んだ地域の一つとされています。そこで中心となっているコロラド大学のクリスティン・ヨシナガ=イタノ教授(音声言語科学)は、人工内耳を活用した言語獲得の研究についても第一人者といえるでしょう。教授が言語聴覚の専門家とともにまとめたガイドラインは、聞こえない、聞こえにくい乳幼児は3歳までの早期支援が重要で、アメリカ手話の活用が基盤のひとつとなることをさまざまな形で指摘しています。

この論文は以下のサイトで参照することができます。

http://jdsde.oxfordjournals.org/content/19/2/143.full

推薦する本

『手話を生きる ―少数言語が多数派日本語と出会うところで―』

斉藤道雄著、みすず書房 2016年

解説: 手話とはどのような言語かを、一般読者向けにわかりやすく書いた本。著者は明晴学園前校長で、最新の言語学、心理学などにもとづき、ろう児には手話が必要であると伝えています。日本のろう教育は手話を認めるにしたがってその姿を変えてきたこと、手話は人工内耳の基礎となり、「バイモーダル・バイリンガル」という形での言語獲得、使用を可能にすることにも言及しています。

『ことばの力学』

白井恭弘著、岩波新書 2013年

解説: 言語習得論を専門とするピッツバーグ大学の言語学教授が、社会のなかで言語はどのように使われているかを一般向けに書いた新書です。明晴学園のバイリンガル教育にも触れています。

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